国内の観光客が回復に向かい、モノの流れも正常化に向かい始めた矢先、L・Bの破綻で、世界同時不況の様相が一気に強まり、オリンピック後の景気回復を想定していた中国は外需の急速な悪化という新たなリスク要因に見舞われる展開となった。

世界の同時不況が「世界の生産工場」を直撃。 二○○一年末に実現した中国のWTO(世界貿易機関)加盟は海外企業による中国への進出に拍車をかける起爆剤となった。
アジア通貨危機の影響で停滞していた対中直接投資は、二○○○年に入ってから回復に向かい、ニ○○二年とニ○○三年になると、投資額は五○○億米ドルの大台を超えた。 これを受けて、もともと香港や台湾系企業がほとんどだった広東省は「世界の生産工場」と呼ばれるようになった。
に○○三年春に広東省で新型肺炎(SARS)が起きたのを契機に、広東省に一極集中していた対中直接投資の流れは北上し、その結果上海市、江蘇省、湘江省を含む長江デルタでは、新たな「世界の生産工場」が誕生した。 WTOによると、二○○七年に中国は僅差でドイツに次ぐ世界第二位の輸出大国となったが、中国の輸出総額に占める広東省と長江デルタの比率はそれぞれ三三・四%と四三・ニ%に達しており、名実ともに「世界の生産工場」の両輪となった。
しかし、アメリカ発の金融危機が実体経済にも波及し、米欧日をはじめとする先進国のみでなく、新興国でも景気が後退し始めるなど、世界の同時不況が現実となってきたなか、「世界の生産工場」は未曾有の危機に見舞われている。 二○○八年一〜九月の全国の実質経済成長率は前年同期の一二・二%増から九・九%増へと、前年同期に比べて三ポイント低下した。
これに対し、広東省は一四・七%増から一○・四%増へ(マイナス四・三ポイント)、上海市は一三・四%増から一○・一%増(マイナス三・三ポイント)、漸江省は一四・七%増からニ・四%増(マイナス三・三ポイント)と、全国平均を大きく上回る下落幅を記録した。 「世界の生産工場」の輸出依存度(輸出総額/名目GDP)の高さが裏目に出たのである。
二○○八年下期以降、中国の輸出は厳しさを増すばかりである。 毎年春と秋に広州で開催される貿易見本市は中国の輸出の先行きを占うバロメーターとして重要視されているが、二○○八年一○月に開催された第一○四回での成約金額は昨秋に比べて六○億ドル減、ニ○○三年以来初めての減少となった。
また、例年なら七月から九月までの問に米欧のクリスマス商戦向けの出荷で賑わうはずだが、二○○八年ニ月末に筆者が広東省を取材した際にも「今年はクリスマス需要がなかった」と答える企業は少なくなかった。 中国の税関は二月の輸出額が前年同期比二%減少したと発表した。

単月ベースで減少に転じたのは、二○○一年六月以来のことである。 一方、二○○五年からニ○○七年の間、実質経済成長率が年平均ニ・三%増となったのに対し、純輸出の寄与度は平均二・四ポイントに達した。
注目すべきは、それに先立つ数年(二○○一年から二○○四年)が明らかに投資主導型の成長だったことである。 固定資本形成と輸出の伸び率を示すものだが、ニ○○二年あたりから投資の加速とともに輸出の増加ペースも加速していることがみてとれる。
投資の結果強化された生産能力、輸出能力がフルに稼働する格好で、成長の牽引役が投資から輸出へとスムーズにバトンタッチされたのである。 一九七八年一二月に改革・開放政策を導入してからのこの三○年間、外資導入や輸出振興の面では、この戦略は大いに成功したと評価できる。
例えば、ニ○○八年末時点で中国が導入した直接投資額(実行ベース)は八五○○億米ドルを超え、発展途上ただし、投資・輸出主導型の高成長を続けるため、アメリカをはじめとする世界の好景気が前提条件として不可欠である。 今後、世界の同時不況が長引けば、輸出の減少←過剰生産能力の調整←新規設備投資の減少←雇用の減少←消費の低迷といった負のスパライルが始まる可能性は排除できない。
アメリカの過剰消費に依存せず、いかに内需を拡大させるかは、持続成長を目指す中国にとっては避けて通れない道である。 国のなかでは最大の直接投資受入国となっている。
その結果、中国は「世界の工場」としての地位を確固たるものにしたのである。 また、対中直接投資の流入増と貿易黒字の拡大を背景に、中国はこれまでの外貨欠乏国から世界最大の外貨保有国に変身し、二○○八年末の外貨準備高は一・九五兆米ドルに達した。
このような成功を収めた背景には、アメリカやヨーロッパといった巨大な輸出市場の存在がある。 中国の輸出総額に占める主要輸出先の比率をみると、二○○八年六月時点で一位のヨーロッパが二○・六%、ニ位のアメリカが一七・五%で、中国の輸出の四○%近くをこのニつの市場に頼っていることが分かる。
アメリカ商務省の統計によると、一九九○年代後半からアメリカの対中貿易赤字は急速に拡大し、二○○○年に日本に代わって中国がアメリカにとって最大の貿易赤字国となった。 二○○二年には対中貿易赤字額は一○○○億米ドルの大台を突破した。
その後、中国のWTO加盟を契機に輸入制限が次々と撤廃されたことは、中国からの輸入に一層弾みをつけ、ニ○○七年になると対中貿易赤字額はニ五六三億米ドルに達した。 ニ○○二年からニ○○七年までの問、中国はアメリカから貿易を通じて合計一・一兆米ドルを稼いだ。

また、ヨーロッパの対中貿易赤字規模も急速に拡大し、二○○七年には一六○七億ユーロと、ニ○○○年の三・三倍に達した。 ここ数年、アメリカと中国、EUと中国との間の貿易摩擦が時折話題となっているが、アメリカの高い消費率と中国の高い投資率が表裏一体となっており、一人当たりGDPが世界一○○位の中国が、米国債の最大の保有国(二○○八年一○月末時点)であることから、米中の間に摩擦や対立というより互恵する好循環が形成されている点に留意すべきであろう。
この互恵関係から、アメリカの消費者は少ない支出で商品を享受できる一方、中国もアメリカへの輸出を通じて、農村部余剰労働力の雇用機会を大量に確保できるほか、税金や土地、インフラ使用料などの徴収を通じて、インフラ整備や不動産開発の原資も獲得できる。 前者については、出稼ぎ労働者に関する「女工哀史」の話はよく耳にするが、出稼ぎ労働者の仕送りで実家が豪邸を建てたといった例は枚挙に暇がない。
後者については、長江デルタや珠江デルタの社会基盤整備が最も進んでおり、不動産開発が盛んな地域としても知られる。 先日、約八年ぶりに広東省東莞市を訪問したが、荒涼たる農村地帯が立派な近代都市に変貌したことに絶句した。
これが東莞に進出した靴やおもちゃ、パソコン部品など数多くの外資系企業から授かった恩恵であることはいうまでもない。 しかし、アメリカ経済が景気後退に入り、雇用環境が急速に悪化するのに加え、株式や不動産の価値が大幅に目減りするのを受け、足元では、アメリカの消費者マインドが大幅に悪化し、貯蓄率が上昇し始めた。

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